コーパス言語学に基づく「モノ」の形容について

安倍なつみさんが詩を盗作していた件が世間を騒がせているようです。まあ、この件については比較してるサイトを見る限り言い訳しようもない感じですが(それなので本人も認めてしまったのでしょうが)、一般的には偶然に似てしまうこともあります。

大体、言葉の組み合わせなんて限られてますからね。作詞の世界では「夜」は「優しい」もので、「羽」は「小さな」もので、「時」は「超える」ものです。夜に意志があるわけでもなし、優しいとかナンセンスな気がしますが、みんなが使うので定着しています。

そういうのを調べる学問の一つにコーパス言語学というのがあるんだそうです。「コーパス言語学がもたらした新たな語彙指導」という記事にその応用のわかりやすい説明が書いてあります(実はこの記事を紹介するために無理に時事ネタに絡めてみたのでした)。

この記事(2ページ目)では、英語でsweetが何を修飾することが多いかを調べた例が載っています。トップはsmell(におい)だそうです。まあ納得ですね。ところが、以下pea(豆?), shop(店?), tooth(歯?)と続きます。豆はともかく、店や歯が甘いというのはどういうわけでしょう。

まあ、元の記事を読めばすぐわかるのですが、それぞれsweet pea(スィートピー)、sweet shop(売店)、sweet tooth(甘党)という成句だったわけです。日本語にはない言い回しですから、ピンとこないのも道理です。

続けて以下のようなことが指摘されています。

逆に日本語からの発想でいけば「甘い誘惑」という表現はよくするが、sweet のコロケーションとして temptation は1件しかない。逆に temptation のコロケーションを検索すると、great, strong のような形容詞で強調する方がずっと一般的であることがわかる。

山口百恵が歌ってたせいか、誘惑は甘いものだと我々は思いこんでいますが、英語ではそういう言い方は滅多にしないということですね(なお、「コロケーション」の意味はこの記事では「共起」とされています。まあ、「同時に出てくる」という程度の意味でしょうか)。

もちろん、コーパス言語学なんて持ち出さなくてもGoogleを使えばどんな言い回しがよく使われているかを調べることくらいならできます。Googleによる英文用例検索というページでかなり本格的なやり方が書いてあって、なかなか実用的です。特に「*」が「任意の一語」になるというのはここで初めて知りました。日本語ではまともに働かないのが難点ですが、英文用例検索には極めて便利です。

──と、実はここまでの話も長い前フリでして。

というのは、こんなことを調べているうちに変なサイトを見つけてしまったのです。変態文献学研究室というサイトなんですが、そのコンテンツに宇能鴻一郎『色白女教師』における「モノ」「もの」に付随する修飾語とそれぞれの出現頻度なんてのがあって妙な雰囲気です。

なんでも指示語を除くとダントツ1位が「いきり立った」で、なんと58回も「モノ(もの)」を修飾しているのだそうで。なお、1回だけ「小さい」があるのがなんだかもの悲しいです。

まあ、こういうのは作家にも依るんでしょうね。ちなみに内田春菊の『ヘンなくだもの』には「熱く猛り狂った」なんてのが出てきた気がしますが──

──あ、いや、まあよしましょう、この話を続けるのは。

えーと、他のコンテンツだと秘宝単語検索「乳首」というのも馬鹿馬鹿しかったです。文学作品に「乳首」という単語が出てくるのを探して喜ぶ(?)というものですが、特にシェークスピアの『ハムレット』のが実に笑えます。

と、いったい何が書きたかったのかよくわからなくなったところで今日はこんなとこで。