[のまネコ問題] モナーを著作物として認めるか

商標登録されていたことが発覚したり、avexから新たな声明が発表されたりと、事態が大きく進展した今となってはいまさらな感がありますが、モナーにまつわる著作権について。

先日の記事「怒りのパターンマッチング」ではこの日記には珍しく色々なコメントを頂きました。興味深いと思ったのは次のコメントです。

よくわからないのは”受け付けない人”が「わた氏の仕事」を
どう評価してるのかということだ。

〜中略〜

・・・基本的な人間の創作物の権利としてイラストレータには
描いたキャラに対する権利が生ずる。たとえば猫の絵を見たときに
「現実の猫を画家は”絵に描いただけ”だから絵に著作権がない」なんて
言ったら正気を疑われるのは間違いない。
著作者は自分の著作物に対する権利を持つ。これが”あたりまえ”の1。

〜中略〜

「猫を描いた画家はすべての猫の絵に関する権利を主張できる」のだろうか。
答:できない。
これが”あたりまえ”の2。

〜中略〜

そんなわけで、端から見てると「モナーではなく、モナーを描いた
イラストレータの作品を、当然モナーではなくその人の絵として別の
名前で商標を取った」って話のどこに問題があるのかさっぱりわからない。

モナーを著作物として認めない」という立場であれば妥当な考え方だと思います。

ただ、基本的な人間の創作物の権利としてイラストレータには描いたキャラに対する権利が生ずるのが「あたりまえ」だとすると、それと全く同じ理由でモナーの作者(どこかにいるはず)に著作権が生じるのも「あたりまえ」だと考えたくなります。

だとすると、モナーを描いただけで複製権の侵害になりますし、ちょっと変えただけでも同一性保持権や翻案権の侵害になるおそれがあります。

──が、そもそもモナーを著作物として認めるかについては一見諸説あるように見えます。

著作権法では、以下のように著作物が定義されています。

一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。

これについて、「のまネコ騒動」を正しく理解するという記事では次のように書かれています。

キャラクター単体では「思想又は感情を創作的に表現したもの」というのは微妙なものがあるし、「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」というのもこれまた微妙だ。

この記事に限らず、抽象的な概念としてのキャラクターは著作物ではないというのが一般的な見解です。著作権とは「著作物」に関わる権利で、アイディアとか抽象的なキャラクターとかの実体がないものについては原則として生じないわけです。

その一方で、

   社団法人著作権情報センターの窓口で、
   「AAは切り絵のようなもの。立派な著作物」 という返答を得ているようです。

という主張もありますが、これは抽象的な概念としての「モナー」についてではなく、「モナーを描いたAA」についてのコメントである点に注意する必要があります。

ウェブではかなり有名な小倉弁護士が言うところの

アスキーアートの場合、一般にこの「創作性のある部分」が狭いのでデッドコピーの場合を除くと著作権侵害は成立しにくい面があります。

というのもそういう意味をはらんでいて、誰かが作ったAAを印刷しただけとかフォントを変えただけとかトレスしただけとかの、まるっきりまるのまんまのコピー(デッドコピー)ならともかく、モナーっぽいものを自分で描いた「のまネコ」の場合は、著作権の侵害とは言いにくいという話なんですね。

したがって、上記で引用した三者は別々の見解を述べているのではなく、実は同じものの別の部分について述べているだけです。

じゃあ、

私がドラえもんに眉毛を加えたら私の創作物になるのでしょうか?

という話になるわけですが、これはこれで別の話になるようです。

こういうパチモンからキャラクターが守られる理屈には一般には二つあって、一つは商標登録によるものです。

もう一つはアニメや映画など、まずベースになる著作物があって、その構成要素として派生的に登場キャラクターも著作権保護の対象になるという解釈によるものです。

デッドコピーでなくても、例えばドラえもんだったら「『ドラえもん』に出てくるドラえもん」だと判れば、複製権や同一性保持権の侵害になるようです。

それでは、モナーの「ベースになる著作物」に相当する作品はあるのかというと、これはいくらでも挙げることができます。

シルカ!!のキャラクター考察には次の記述があります。

最初はコピペでセリフを喋らせるだけのキャラクターでしかなかったが、「ギコニャー’00 旅立ち」「勇者モナ太vs田中」「神聖モーナ帝国」「日本映画黄金伝説」等を経て「モナー童話集」で「ストーリーを作る」というAAのジャンルが確立する。

特に「勇者モナ太vs田中」は私も当時リアルタイムで楽しんでいて、AAで物語を綴るとはなんて画期的なんだと感じた記憶があります。

これらの作品は当然著作物とされますし、その結果として登場キャラクターであるモナーにも著作権が及ぶという考え方は妥当だと思われます。

2ちゃんねるのような文字主体の掲示板に限らず、お絵かき掲示板や個人サイトなどで、様々な人がこれらを源流とした作品を作ってきました(私もそのうちの一人です)。そして厳密に言えば、これらの作品も先行作品の著作権を「侵害」しながら成り立ってきたわけです。

従って、AAを使ったありとあらゆる作品は著作権侵害のおそれが前提としてあると言えます。

少なくともマイヤヒーフラッシュがそういった作品の延長線上にある以上、この事実には変わりはなく、キャラを「のまネコ」に変えたところで「複製権の侵害」が「同一性保持権や翻案権の侵害」になるだけで本質的には変わらないと考えられます。

しかしながら、著作権の侵害の場合は原著作権者にしか諸々の権利がありません。ここで論点は「のまネコによって権利を侵害された著作権者は誰なのか」という点にシフトします。