だからマリみてはミステリなんだってば

マリア様がみてる 2 (マーガレットコミックス)

マンガ版マリみてを読みました。マンガのほうの作者自身も書いていますが、割とオリジナル要素が多めに入っていて原作知ってる人にも新鮮です。

ただ、アニメと同様、ラストのオチが全然効いてませんねぇ。「妊娠」というキーワードがいきなり過ぎなんですよね、読者にとって。

なんか前からずっと同じ事言ってる気がするんですが、原作者はミステリ好きなんですよ。これは絶対です。マリみては全編にわたってミステリの手法で書かれていると言って過言ではありません。それが顕著に出ているのが「いばらの森」であったり、真夏の一ページのアレだったりするわけですが、基本的に他の作品も同様です。

特に「黄薔薇革命」の黄薔薇さまに関する部分は典型的な叙述トリックなのに、マンガもアニメもその要素をあっさり抜いてしまっています。何故なんだー。

結局マンガのほうの作者は、黄薔薇さまにまつわる件は黄薔薇さまが「黄薔薇革命」に絡んでこないことへの単なるエクスキューズだとしか考えていないんじゃないですかね。いや、もちろんそういう一面もあるわけですが、ただのエクスキューズに終わらせないのが今野緒雪氏の手腕というかポリシーというか。

黄薔薇さまについての情報は祐巳たちにはほとんど与えられません。あまりに断片的で、そこから「妊娠」という結論を導き出すのは飛躍がありすぎです。せいぜいが、無責任な噂が立つ程度のものです(それでも「あの」由乃をして詮索を「やめておく」と言わしめる程度にはアンタッチャブル感があるのですが)。

しかし読者には「妊娠」と断定するのに十分な情報が与えられます。その「読者にだけ与えられる情報」を削ってしまうと、ラストの種明かしがまるで意味のないものになってしまうわけで。

それと、クライマックスの剣道の試合も盛り上がりません。もちろんマンガオリジナルの回想が入る演出は悪くないんですが、「令さまが負ける──!」という危機感が全く煽られません。

リリアン優勢で迎えた決勝戦祐巳がイケイケムードになっているところに祥子さまが「まずいわね……」とつぶやいて水を差します。祥子さまの解説により実は危機的状況ということが明らかになります。ここでのじっくりとした解説で絶望感が煽られる一方で明鏡止水の境地に入っている令。この対比があるから令の心境が美しく映えるわけです。

その辺、マンガのほうは根本的に間違えてしまっている気がします。祥子さまが「──まだよ」とか言って(読者に)希望を持たせてしまってるんですね。原作では、まず段位の差が示されて、さらに一度戦って実力差がはっきりと示されます。二段構えで令の敗色を示してるわけです。単純に決勝戦で終わりにならないのは、令に2度戦わせるためで、何故2度戦わせるかと言えば1度目で実力差をはっきり示すためなのです。

まあ、試合のシーンに限らず、原作は全般に理屈っぽいんですよね。新聞部がアンケートを取り違えるあたりも2枚綴じのクリップ留めなのでうんぬんかんぬんと、ストレートじゃありません。マンガではあっさり削られてしまいました。

でもこれじゃやっぱダメですよね。由乃と令の性格を勘違いしていたのが祐巳だけみたいになっちゃいますからね。そうじゃなくて、世間一般に誤解されているという事実を示すのがアンケートのくだりなんですから。

マリみて少女小説ですから、もちろん少女マンガ的要素を多く含んでいます。マンガ化の際にそういう要素を増幅するのは別に間違ってはいないと思いますが、そのせいで他の要素が削られてしまうのは悲しいですね。なんというか、総合的な面白さが損なわれている気がします。