「ダウンロードだけなら合法」のうそほんと

ナナミさんのナナミの雑記部屋から大量のアクセスが来ているので見てみたら、どうやら一部でアニメキャプサイト問題が再燃している(いた?)ようです。

私が前に取り上げたときは「Amazonアソシエイトとのコンボで稼ぐのはけしからん!」という話だったと思うのですが、今回は「Winnyで動画落とすのはどうよ」的な話が主眼のようです(なお、ナナミさん自身はWinnyは使っていない旨を表明しています)。

ところで、2ちゃんねるアニメサロン板に立っている「ヲチスレ」に「Winny使ってようが、ダウンロードだけなら合法」的な発言がありました。

確かにダウンロードだけなら合法という話はよく聞きますね。Winny使っててもやっぱりそうなんでしょうか。

まず、Winnyは関係なしに「ダウンロードだけなら合法」という話について。

これについては、経産省による「電子商取引等に関する準則(PDF | GoogleによるHTML版)」にはっきり書いてあります。

PtoP ファイル交換ソフトを用いて権利者によって許諾されていない音楽等のファイルを他のユーザーからインターネット経由で受信し複製する行為(ダウンロード行為) は、技術的保護手段の回避等によって行ったものではなく、かつ個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用する限り、私的複製に相当し、著作権又は著作隣接権の侵害には当たらないものと解される

まず、ダウンロードとは複製する行為の一種である、としたんですね。で、私的複製には権利者の許諾は要りませんから、それが私的複製の条件を満たす限りは違法ではない──という解釈なわけです。

別にP2Pに限らず、HTTPサーバなどにアップロードされているファイルをダウンロードする行為も「私的複製」と見なされるとするのが妥当な解釈でしょう。

なお、ファイルナビ 法律講座には、「音楽(MP3ファイル等)をDLして、鑑賞した」という場合について、

著作物だとわからずにダウンロードしたのであれば著作権の侵害ではありません。
ただし、著作物だと分かっていてダウンロードするのはよくありません。

というコメントがついてますが、許諾されているかを知ってようが知っていまいがダウンロードするだけなら合法ですし、合法的に複製されたものを鑑賞したところで現行法の範囲では著作権侵害にはなりません。

追記(2006/01/23 17:35)
著作権法 第七章 第百十三条 二では情を知つて頒布し、又は頒布の目的をもつて所持する行為をもって諸権利を侵害する行為と見なすとされていますが、これは飽くまで送信者側の話です。

まあ、倫理的に「よくない」のは確かですけど、知っているか知っていないかで著作権侵害か否かが決まるかのような誤解を招く書き方はマズいと思います。

(蛇足ですが、フォトショとかのソフトウェアについて。ダウンロードだけなら罪に問われませんが、使用許諾条件に正規のユーザ以外使えない旨が書いてあるはずなのでインストールするのはアウトでしょう)

一方。

アップロードは公衆送信権送信可能化権の侵害になりますので、違法です(ここで言うアップロードとは、ファイルを「送信可能」な状態にすることです。実際にダウンロードされたかどうかは関係ありません)。これについてはまあ、特に議論の余地はなさそうです。

じゃあ、Winnyでもダウンロードだけならば合法なのかというと、そういうわけでもないようです。

というのは、Winnyはある意味、ダウンロードと同時にアップロードを行う仕組みになっているからです。

Winnyを使ってファイルをダウンロードしたり、ファイルを中継したりすると、そのファイルが自分のPCにキャッシュとして溜まっていきます。このキャッシュは同じファイルを必要とする人によって参照されます。

なお、ダウンロードしている人にとって、受信しているファイルがキャッシュなのかオリジナル(意識的にアップロードされたもの)なのかの区別がつきません。Winnyはこの仕組みによって、一番最初にアップロードした人の匿名性を実現しようとしています。

しかし、同時にこれはアップロードした人もキャッシュを溜めているだけの人も皆共犯で同じことをやっていると見なすこともできます。

両者の区別がつかないというのはそういうことです。

だからといって、Winnyユーザが直ちに諸権利を侵害していると見なされることは(まして逮捕されるなんてことは)現実的な問題としてはあり得ないのですが、技術的にはWinnyを起動するだけでアップロードしてる人と「同じ穴のむじな」になってしまいます。

ただし、Winnyはキャッシュしているファイルを暗号化しており、ツールを使わないと自分が何をキャッシュしているか(すなわちアップロードしているか)が分からないようになっています。

このことについては、この手の話の権威といえる高木浩光氏が次のように書いています。

ファイルを暗号化してキャッシュさせるという仕組みによって、「ダウンロードするとそれが新たな拡散に加担することになる」という事実を、ユーザに認識させにくくする工夫がなされている

少々恣意的な解釈のようにも思われますが、Winnyが広まった理由の分析としては非常に鋭い見方です。

しかしながら、Winnyで許諾のないファイルをキャッシュしている状態をもって送信可能化権を侵害していると見なされるかどうかについては判例がない……と思いました。これはいろいろと解釈しようがあるはずなのでグレーゾーンとしか言いようがないですかねえ(これについて参考になりそうな記事を紹介しておきます「放流者の猿知恵」「Winnyと著作権」)。

というわけで、結論としては、

  • どんなファイルであってもダウンロードするだけなら今のところ合法である。
  • Winnyを使った場合、技術的には同時にアップロードも行うことになる。
  • それが違法という判断はされていないはずだが、そうなる可能性はある。

となるでしょうか。

まあ、法律が関わる話は何でもそうなんですけど、生活笑百科みたいにはっきり白黒つけちゃうような話はほとんどないのが普通なので、この記事も参考程度にどうぞ。