ニコニコ市場はあと2回くらい変身を残していそうだ

「将来の夢、正社員」の時代が来るという話から

id:essa氏による未来予想図と、id:ymScott氏によるそれへの反論につきまして。

Amazonとかが市場のロングテールの部分でも商売してくれるおかげで、そのあたりをうろうろしているアーティストが食べていきやすくなったのは確かなんでしょう、きっと。さらにニコニコ動画などの「アーティスト」が表現する「場」は今後ますます拡大していく傾向にあります。

id:essa氏はこの傾向が今後続けば、(逆に正規雇用は減る傾向にあるから)アーティストを目指すことは比較的山っ気のある話ではなくなるだろう(逆に正規雇用されることを目指す方が非現実的になる)――というんですね。

それをid:ymScott氏は、

そんなに簡単というなら、作品一本作ってみろ

――と一蹴します。

id:ymScott氏はコメント欄でこうも書いています。

今のessaさんの主張を肯定するには「皆が金に頓着が無くて、ちょっとでも良いなと思ったらホイホイ金を出す」という社会が実現される必要があるので(そういう意味ではバブル絶頂期なら受け入れられたかなという気はする)。ワンクリック押すのと1円出すことの間にある断絶をあまりにも無視しすぎてるというか。ワンクリックは指さえ動けば無限だけど、金は例え1円でも積み重なればそれなりの額なんで、どこまで行っても有限だし。

確かに直接お金を取れるクオリティのものを作るのは並大抵のことではないと思います。

――が。

クリック数というか、ページビューが(間接的にしろ)お金になればいいのだったら、単純にアフィリエイトすればいいような気がします。別に直接その作品を買ってもらう必要はありません。人さえ集めればいいのですから。

二重の意味でメジャーなアーティストにぶら下がる

実は私はid:essa氏の主張を読んだ当初、少数のメジャーなアーティストに依存する形でMAD職人が食べていける未来が目に浮かびました。

一から新しいことを作るのは大変ですが、適当な素材があってそれを加工して良いのなら一気にハードルが低くなります。

おかげでニコニコ動画ではMADが氾濫しているわけですが、その中には極めてクオリティの高いものが多くあります。もちろん、クオリティが高いからといってそれで食べていけるわけではありませんが、今後ニコニコ動画の規模が今よりずっと大きくなって、例えばそこでのアフィリエイト収入がMADの作者にも入るような仕組みになれば、月20万円くらい稼ぐ人が出てきてもまあ、おかしくないように思われます。

一からものを作る力がなくても創作で食べていけるようになるのなら、やはりそれはid:essa氏が思い描く未来とかなり近いものです。

とはいえ、力のあるオリジナル作品がなければMAD職人は創作活動が出来ないわけですから、今と同じように力のあるアーティストは必要です(それに加えて、そういう人がオリジナルを作るのがバカバカしくならないような社会の仕組みも必要です)。

また、アフィリエイトの仕組みによってページビューをお金に換えるにしても、アフィリエイトで扱う商品はやはり金になるコンテンツである必要があります。

なので、現在主流であるメジャー寄りの「恐竜の頭」的商売が引き続き成り立っていないと、決して少なくない人が創作で食べていける未来――なんてのはやってこなさそうです。

もっとも、逆に言えば「金を取れるクオリティ」のものが作れる人はごく少数でいいのです。極めて希な才能を持った人が力のあるコンテンツを作りさえすれば、それに(素材とアフィリエイトとの二重の意味で)ぶら下がって今よりもっと沢山の人が創作活動で食べていけるようになるかも知れないのです。

ニコニコ動画アフィリエイトがついた意味

これはMAD作品を作ってその関連商品をアフィリエイトで売るというだけの話ではありません。

アフィリエイトというのはそもそも、「基本的にどこの店で買っても同じ」な商品を「うちの店から買わせたらそれを誘導した人に分け前を上げるよ」――というシステムです。Amazonなどがそれに期待しているのは単なる客寄せ効果です。

関連するコンテンツで客寄せをした方が商品を買ってもらえる割合が高いからみんなそうしているわけですが、将来的にほとんどすべての購買活動がWebで行われるようになれば、アフィリエイトで扱う商品がコンテンツに関連してるかどうかなんて関係なくなります。

そういう極端な時代が訪れたときに(例えば)Amazonがコンテンツに求めるのは、「そこで買い物をするとAmazonで買ったことになる場」に人を集めることが出来る力です。「買うつもりがなかったものを買わせる」必要はありません。来た人に「買おうと思ってるもの」さえあればそれでいいのです。

でもって、単に「人を集める」だけであれば、それが「金を取れるクオリティ」である必要は全くないわけですから、id:essa氏の言うようなことが途端に現実的になってきます。

こういう観点からすると、ニコニコ動画Amazonアソシエイトがついたのがものすごくエポックメイキングなことのように思われてきます。「そこで買い物をするとAmazonで買ったことになる場」としてはまさしく「ニコニコ市場」こそがそれに他ならないわけですし(一応id:essa氏は正規雇用の反対側で同様のことを主張しています)。

今はまだ「アマゾン芸」を披露するためのシステムに過ぎない感じですが、もしかしたら大化けしますよ、これは。

でもまあ、「ほとんどすべての購買活動がWebで行われる」という状況は極端すぎといえば極端すぎです。それに、そもそもこういうお金の稼ぎ方が果たしてロングテールのモデルに沿っているのかも疑問です。

そういう意味では、id:essa氏の主張がロングテールのモデルに沿っている(すなわち「金を取れるクオリティ」を要求している)ように読み取れる以上、非現実的と思われても仕方ないような気はします。