読まない本の感想文『マリア様がみてる 妹オーディション』

祐巳の妹事情を私が知らない理由

今更ですがマリみて最新巻の『妹オーディション』。あちこちで感想がウェブ上に見られるようになってきましたねー。

ちなみに私は季節合わせ読みをしている関係上、買ってはあるものの手をつけてません。

「季節合わせ読み」というのは物語に合った季節にしかマリみてを読まないというものでありまして、これ以上にない季節感を存分に堪能できるのはいいのですが、新刊が内容と合わない時季に出てしまった場合はそれまで読むのがお預けになるという諸刃の剣なのです。

特に『チャオ ソレッラ!』は秋の修学旅行の話なのに発売は3月末で、実にまる半年のお預けを食らいました。今度の『妹オーディション』は(表紙の折り返しにあるあらすじによると)11月頭の話ですから……(計算中)……

──去年もつらかったですけど、今年はさらにつらいです(花粉症の話みたいですね)。

好き好き大好きっYU-SHOWさんに依ると『妹オーディション』はネタバレがけっこう致命的とのことで……。さらにその他から伝え聞く情報も考え合わせると、つまりアレですね。

祐巳のスール決定なのでは、と推測されるわけです。しかもそれはズバリ瞳子

以下、(意図的に情報に触れないようにしているので)真相は知らないけれどこの推測は正しい、という仮定の下に話を進めていきます。真相を知っている方はニヤニヤしながら読むと吉。

ミステリとしてのマリみて

さて、私は今までずっとマリみてはミステリの様式によくハマると主張してきました。

ちなみにマリみてTTのワトソンさんも同様の指摘をなさっています。

マリみては一編一編がミステリの様相を呈しているのですが、それとは別にシリーズ全体を覆う大きな謎がありました。それはもちろん、「祐巳の妹になるのは一体誰なのか」です。

これは殺人事件における「真犯人は誰か」に匹敵するほどの大きな謎でした。

もはやフーダニットでない

「誰がそれを為したか」がメインの謎になるミステリは「フーダニット(Who done it)」と呼ばれます。本格ミステリの典型的なパターンです。

もし「祐巳の妹になるのは一体誰なのか」をメインの謎とするならば、マリみてはフーダニットのミステリに位置づけられると言えます。

しかしながら、その後の展開からして(特に『特別でないただの一日』で可南子ちゃんはミスディレクションだと示唆された時点で)、祐巳のスールとなるのは瞳子であろうことは明白でした。ミステリで言えば、おもむろに真犯人が明かされるまでもなく、「犯人は瞳子」でガチだったわけです。

ミステリには、「明らかにこいつが犯人」なんだけども、動機が分からない、もしくは完璧なアリバイがある等の理由で、「何故」「どのようにして」が主眼の謎となるパターンがあります。それぞれ「ホワイダニット (Why done it)」「ハウダニット (How done it)」と呼ばれます。

「最後の種明かし(『妹オーディション』)」の直前の段階で「誰が」は明白なわけですから、マリみてはフーダニットであると見なすよりはむしろ、ホワイダニットハウダニットの構図になっていると言ったほうが妥当に思われます。

しかし本格ミステリでもない

さて、今まで「真犯人=祐巳の妹」として話を進めてきましたが、これだと符合しない部分が現れてきます。

それは、祐巳の妹を犯人と見なすと「被害者」は一体誰に相当するのか──という問題です。

今までの流れだと当然「祐巳」が(飽くまでミステリの構図における)被害者です。祐巳が被害者で瞳子が真犯人という構図はいろんな意味で受け入れやすく感じます。

しかしながらリリアン女学園のしきたりがこの構図にヒビを入れます。というのはロザリオの授受は姉から妹への一方通行であるのが原則だからです。つまり姉妹の契りを結ぶにあたって「行為をなす」のは飽くまで祐巳の方なのです。ミステリにおいて「行為をなす」のは犯人の方である以上、祐巳が被害者という構図はあまりマッチしないように思われます。

──ここで。

実は犯人と被害者が逆だったのではないか……と考えます。

つまり、実は真犯人は祐巳だったのです。そして被害者は瞳子だった!

となると、マリみては真犯人を主人公とした小説だったということになります。……そういうミステリ、ありますね。そう、「刑事コロンボ」や「古畑任三郎」に代表されるような「倒叙ミステリ」です。

倒叙ミステリとしてのマリみて

瞳子が初登場する「銀杏の中の桜」が作者によってシリーズの原点とされているのも、こう考えると象徴的です。

まず最初に被害者として現れる瞳子。そして「次の物語」で真犯人として現れる祐巳。そんな祐巳に目をつけたのは、当然我らが祥子さまです。

ここで祥子さまは探偵役とすべきでしょう。

倒叙ミステリでの探偵は、犯人に出逢ったその瞬間に「目をつけ」、その後の物語は「二人のやりとりがメイン」になります。そして探偵は犯人に対し「告発」という「行為をなす」わけです。

構図を整理しましょう。ここで「行為をなす」ということは、マリみてでは「ロザリオの授受」、ミステリでは「告発」あるいは「殺害」となります。

「祥子」─ロザリオ→「祐巳」─ロザリオ→「瞳子

「探偵」─告発→「真犯人」─殺害→「被害者」

時系列がひっくり返ってますけど、こっちの方が構図としてはハマってしまいました。なってこった。

以上から、私は「マリみて倒叙ミステリである」という仮説を提唱するものであります。

ちなみに、ここまでは祐巳とスールになるのが瞳子という前提で語ってきましたが、もしそうじゃなかったらどうなるのでしょう。今までの仮説は全て崩れてしまうのでしょうか。

──いや、そんな、あそこまで気を持たせといて最後の最後で「実はこっちでした」なんて、本格ミステリ以外の何もんでもないでしょう。……というわけで、どっちに転んでも「やっぱりマリみてはミステリ」ということになるのであります。

蛇足ですが、この記事は「どこまで屁理屈をこねられるか」が主題ですので、そのあたりどうぞよろしく。